junkoの日記

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日本実験映像作家の雄、松本俊夫

juwako2006-11-09

近頃、ビデオ制作などをやり始めたせいか、あらためて気になる映画・映像などを見直してりしている。
有難い事に、ここ数年前から今まであまり見る機会が出来なかったような、ひと昔前の興味深い映像集が相次いで復刻されてDVDとかで身近で見れるようになった。これまでだったら、近代美術館のフィルムセンターあたりでたまに上映されるか、というような作品まで自宅で見れるようになったとは喜ばしい事ではないでしょうか。

松本俊夫 実験映像集1961-1987」は映像作家、松本俊夫の劇映画とは違ったジャンルの実験的映像ばかりを集めた作品集である。そして、それらを見て、あらためて彼の幅広い仕事振りに驚いた次第であった。先日行ったビル・ヴィオラのシンポジウムでも、彼の映像作品が上映されていたところをみると、当時アメリカで新しく作られていたビデオ作品なり作家の存在も知っていたり交流もあったのだろう。
私が松本俊夫の作品を始めて見たのは、彼の作品を知る多くの人がそうであろうが、ピーターが16歳で初主演した伝説的映画「薔薇の葬列」である。これを見た時も相当におもしろくてビックリした記憶がある。1968年制作で新宿が舞台という事だから、その当時の時代的カルチャーがそのまま映像に取り込まれていて、劇場映画とはいえかなり斬新だったはずであろう。そして、1971年に制作された次作「修羅」はより劇映画っぽくはなっているが、映像的にはよりスタイリッシュでかっこ良く仕上がっている。話の内容も鶴屋南北の歌舞伎狂言劇なのでかなりディープである。情や欲で動かされやすい人間の因果応報のドラマは、凄まじいクライマックスを迎える。
、、というようなドラマ的な長編映画も作る一方で、今回見たこのような実験的な映像も数々作っていたとは驚くべき作家である。

実験的と言っても、彼の場合はドキュメンタリーから始まっている。が、このドキュメンタリー作品がおもしろい。「西陣」や「石の詩」のように物が作られる現場を取材している。現場にある機械やら素材などを構成的に撮った映像ももちろん興味深いが、インタビューした声を今で言うサンプリングして、繰り返したりコマ切れにして使うなど、ここでもトンだ演出をしている。
そして、彼が最も興味を持って制作していたのが、当時最新であったであろう映像技術を使った映像作品である。かれの作品の面白い点は、時代のカルチャーなどを積極的に取り入れている事である。「薔薇の葬列」でも時代の流行ものが存分に見てとれたが、実験的と言われるジャンルにもその当時の空気感がそのまま表現されている。それが観る方にとっても、色々と感じさせるものがあってなかなか面白い。色変換して様々に変化する画像などモロにサイケな映像だし、特殊効果でトンネル状や三次元的な画像は「2001年宇宙の旅」のワープ・シーンみたいだったり、と巷に溢れるビジョアルをすぐにアイディアのヒントにしているのだろうか、と勘繰ってしまう程である。
そして、彼の映像の大きな要素の一つでもあるサウンドは、これまた当時様々な映画作家達と共同制作していた現代音楽作家達である。湯浅譲二武満徹一柳慧秋山邦晴などなど。。いやはや、ここにも時代の空気を感じるなー。サウンドもやはり重要な要素なのだという事も再確認いたしました。
60-70年代、色んなジャンルの人達がお互いの制作に関わっていたりして、これだけおもしろいものを作っていたのが再発見出来るのも復刻版の楽しみでもある。

ちなみに現在、川崎市民ミュージアムで「眩暈の装置:松本俊夫をめぐるインターメディアの鉱脈」という展覧会が開催されているのでちょっと見に行った。内容は資料的な展示がほとんどなので、かなり地味めでした。