junkoの日記

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真夏の夜のスライドショー

写真家トヨダヒトシ氏のスライドショーを拝見。(東京都現代美術館にて。)
彼はずっと一回限りのスライドショーというスタイルで発表している。NY在住だが、日本で発表を始めたあたりからたまたま見る機会があって、かれこれ全編見ている事になるだろうか。
今回の作品「NAZUNA」は、以前に発表したものをバージョンアップしたもので、90分間(途中で休憩有りだが)ずーっとサイレントで続いていく。写真が次々と映し出される途中には、時々つぶやきのような言葉も映される。
この作品は、彼がNYにいる時に目撃した9・11のシーンから始まる。私が以前「NAZUNA」を見た時、サイレントで淡々と画面が進んでいく中、突然ツイン・タワーから煙が立ち上るシーンが現れた時には、一瞬会場が息を呑むような空気に変わったかに思えた事を記憶している。
今回の冒頭のそのシーンは、以前と較べるとあっさりと始まった感である。9・11のシーンは、その後の世情が大きく変わっていく気配と、彼の過ごす日常との交差の単なるきっかけだったかのように、延々と様々な出来事をスライドは映し続けていく。この2つの世界は大きな落差があるのだが、いま世界中で同時に起こっている事でもある、という印象を強く抱く。
山村の小さな禅寺やアーミッシュの集落(日本にも存在していたのである)を訪ね、俗世から離れたような滞在をしているかと思えば、次のシーンではいきなり渋谷の街並みが出てきたりする。そして、ニュースでは一触即発の事態が報道され続ける。。。映し出されるシーンはバラバラでも、彼の視点の距離感は統一されており、淡々と物事は過ぎていく。
出来事の合間に時々映し出される、たまたま彼の目についた小さな虫や植物の営みだったりというシーンも気になる。セリフの中で挙げている西行芭蕉の心象世界の映しえのようなシーン。悟りの世界と俗世の世界を行き来しながらも、自らは悟りの気取りなどなさそうに見えるトヨダ氏が、西行芭蕉などに親近感を抱くのは納得。
映し出されるものの営み全てが淡々と過ぎ去っていく作風は、スライドだけで見せていき終わったら作品の痕跡はない、という手法と相まって、はかなくもなんとも言えない感動を見る者にあたえる。この刹那的な印象は、とても”写真的”なものにも感じられる。
夜風にはためいくスクリーンのせいで、静止しているはずの写真が蠢いているかのように見えたりして、一夜の幻のようにショーは終わった。