junkoの日記

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DVD映画鑑賞記、その1。

立春というのに雪が降る日々。しみじみしてしまう天候。

こういう日はDVD鑑賞にうってつけ。このところ作品制作やら色々な交渉雑務やらで何かと落ち着かなかったので、見たかった映画をまとめてDVDで見る。その中で気になった作品について、少々コメントなどを。


日本で公開した時、どれだけ話題になったかは不明だが、内容について思わず好奇心を持ってしまった「ブリッジ」というドキュメンタリー映画。(監督エリック・スティール
”ブリッジ”とはサンフランシスコにある誰もが御存知”ゴールデンゲート・ブリッジ”の事。テーマは、この橋で繰り返される(実に世界一の数と言われる)投身自殺について、というちょっとヘビーな内容。実際にここで自殺してしまった人の周辺にいた肉親・知人たちへのインタビューをまとめた作品である。
この作品の内容で話題になったといわれるのが、実際に橋から投身する瞬間を映した映像である。制作者が橋に向かって定点観測していたカメラで撮影されたものという。人物の表情も定かではない遠くからのイメージのせいか、実際その”自殺の現場”シーンを見てもそれほどリアルな感じがしない。そのあっけなさがかえって空恐ろしい印象でもある。
偶然映ってしまった自殺する直前の彼らの映像と、彼らが死んでしまってからの肉親・知人へのインタビューが交差するという構成は、ドキュメンタリー作品の王道のような手法。が、何気なく橋の上を歩いている人まで意味有り気に見えてきてしまう、というのは興味深い効果だ。
インタビューの内容については、やはり言わずもがなである。残された人々に自殺の動機など探りを入れてみたところで、死んでいった人間の本心など誰も言い当てる事などできない。しかし面白かったのは、自殺の現場に偶然出くわしてしまった人たちのインタビューである。咄嗟の事件に彼らが思わず行動した事や考えてしまった事など、彼らの姿に人間としての生々しい反応を見てしまう。
取り上げたテーマが重いだけに、全編抑制が効きすぎて却って構成が紋切り型という批判もあるようだ。テーマからしてキワモノっぽい作りになってしまい勝ちなのを、あえて押さえ気味に淡々とまとめているようにも見える。ドキュメンタリー映画と言えども?スタイリッシュで美し過ぎる、というくらいの映像、そこで起こっている事とのギャップに何とも言えない感情が湧いてくる。
全編を通して映される橋を望む様々な映像。ゴールデンゲート・ブリッジという異常なほど巨大な建造物を取り巻く美しい風景。そのような光景の中で行なわれる突然の投身。これほど人目にさらされる所で堂々と自殺が行なわれる場所など他に無いだろう。その晴れがましい?舞台ゆえか自殺者は跡を絶たない。(実際に映された場面も晴れたシーンばかりである。)
それにしても”橋”から飛び降りるという行為は何か象徴的である。離れている場所を繋ぐものである”橋”。そこからダイブする事で、この世から一瞬にして向こう側(死)へと移行し消えていく。


この作品を見て、なぜか以前見た森達也氏の作品「A」、「A’」を思い出してしまった。こちらの作品はオウム信者を取材し、これまた話題となったドキュメンタリー映画。そして(「ブリッジ」のように)スタイリッシュな映像とは真逆ともいえる作品である。こちらは、ハンディカメラでどんどん混乱した現場を映していく、監督の思い入れがタップリと入り込んだ作りで、かなりアツイ作品。(この作品も興味本位として思わず見入ってしまうシーンが多し。日本人の中にある排他的な性格がゾロゾロ描かれている。)
印象は違えど、どちらの作品もタブーなテーマを扱っているので、色々な反応があった作品である。批判ももちろんあるのだが、監督の個人的な興味・疑問から始まり作られている様子なので、見る側はその問題に思わず近づいて考えてしまう。そして、そのテーマに対して、作った側が答えを出しあぐねている感じも伝わってくる。その解決策が見えない状況に、作り手のジレンマが伺え却って人間くさい印象をも感じてしまう。