junkoの日記

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デュマス - 滲んだ顔たち

以前から気になっていた作家、マルレーネ・デュマスの展覧会「ブロークン・ホワイト」を見に行く。(作風からして日本で受けそうな気もするが、今回始めて日本での本格的な展覧会というのは、ちょっと以外。)
私は、彼女の作品のぼんやりと描かれた顔に、いたく魅力を感じる。それらはタッチとしてはかなり粗く未完の趣を残し、描写していない余白の加減も面白い効果に見えてくる。
そのようなデュマスの表わすぼんやりとした顔の有り様は、(特に水彩インクや墨で描いた作品の)ちょっとした滲みや筆のタッチなど、絶妙に陰影に富む表情だ。
一見サラッと描いたようでありながら、表情豊かな描写が見えてくる。彼女の並々ならぬ手腕がうかがえる。
ヌード作品も多いが、このデュマス・タッチとも言える滲み加減が、肌の微妙な肌理を表わしているかのようで、なかなかエロティックな効果を上げている。
中でも、少年の半裸像を描いたシリーズなどは、肌のデリケートな質感にエロチックでありながらどこかエレガントな雰囲気が感じられる。女性のヌード像が、より肉感的でリアルに見えるものがあるのとは、ちょっと対照的な印象で面白い。
デュマスのプロフィールの中で、アパルトヘイト下の南アフリカ出身だった、という事を殊更取り上げられたりする。テーマは確かに広く人間を扱っているけれど、作風として彼女の個人的な感性がストレートに感じられる事で、見る側は素直に作品へと入っていける。


絵の題材は写真から多く引用する手法だが、今回の展覧会では、荒木経惟アントン・コービンの写真を元ネタにした絵がある。二人ともどちらかと言えば、俗っぽいエロス的テーマを平然とストレートに撮影する。エモーショナルなドラマ性がありながら、ちょっと醒めた印象もうかがえる、といったポートレイト写真を得意とする彼ら。ファイン・アート系の写真家ではなく、彼らのような写真家を選んだあたりに、彼女の趣味というのがちょっと伺えるような気もする。
コラボレーション作品といえば、今回なぜか坂本龍一との共作ビデオ作品もあったりする。彼が何を担当したかの表記はなかったけれど、音楽家だからやはりサウンドトラックという事だろう。効果音をサンプリングしたようなシンプルなミニマル・サウンド。あまりにもさり気無いサウンドに、かえって坂本龍一の手際よい存在感を感じさせる。しかし、彼はどこにでも食い込んでくるなー(笑)。


それにしても空間の使い方が贅沢だ。かなりゆったりめの展示の仕方。ペインティングの醸し出す空気が、空間の間の取り方で中和されている感じ。なぜか羨ましくなる程の余裕の見せ方である。
他の違うジャンルの作家とのコラボレーションでも、その余裕さは感じられる。お互い適当な距離を保ちつつ、共鳴し合う作品たち。それぞれの作家の精神的余裕も感じられて、これまた羨ましい関係性である。