junkoの日記

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博士論文のお題となるか。

突然英文の取材メールを受け取りました。(近頃毎日何通もの英文スパムメールが入ってくる故、英文メールというだけで危うくまとめて消去するところだった。)ドイツ出身でイギリスの大学で日本の現代写真について研究している、という博士課程の方からです。写真作家でもあるらしい彼は、私の作品を以前から知っているらしく、日本へ今来ているから是非、私のプロジェクトについて聞きたいとの連絡です。
英語でのコミュニケーションはいまいち不安でしたが、わざわざ来日しているのにお会いしない訳にはいかないでしょう。そのうえ、彼の博士論文のテーマがポスト・バブル期の日本写真界について、と何やら好奇心をそそる内容だったので快良く承諾しました。
私以外にも、畠山直哉さんや梅佳代さん、長島有里恵さんらに取材したとの事。彼と会った時には、10年前出版した私の写真集「スクールデイズ」を持っており、絶版久しい本ですから、何処で入手したのか聞いたところ「先日ブックオフで見つけました。」との答え。さすがにリサーチャーです。
彼は、5・6年前日本に滞在していたらしく、作品として日本で写真も撮っていたらしい。お話してみると、日本のサブカルチャーにも興味があるようで、日本の雑誌についても色々リサーチしている様子。私はあまりちゃんと目を通した事の無い「アウフォト」や「egg」(懐かしい。)というティーンズ向けサブカル雑誌なども、彼なりに分析しているらしく研究熱心さが伺われます。
たとえば彼の質問―”「anan」のモデルについて、外人比率が年々低くなっているのは、何故だと思いますか?”という指摘には、日本を外側から見ている人の観察だなーと、聞かれたこちらも結構楽しくなるようなコミュニケーションだったりする。
そして、メイン・テーマは、”ポスト・バブル期の日本の経済が下降していく時期に、日本の写真界は新しい隆盛が見られるのは何故か?”という事について。そのテーマを調査するために、私を含めた作家たちをサンプルとして、直接会話しながらリサーチしているらしい。面白い指摘だったので、こちらも色々思うところはありました。しかし、語り合うほどの英語力がこちらに無かった事は悔やまれます。たどたどしい会話であっという間に時間切れとなり、こちらとしては全く伝達不足の感。まさに隔靴掻痒の心持ち。。。
彼の指摘した写真界の興隆というのは、いわゆる”若手写真家ブーム”だったり”ガールズ・フォトグラファー”がもてはやされていた時期になるでしょう。日本国内でこの現象を社会状況も踏まえてちゃんと検証する、という事はあまりやられていないような気もします。(あえて検証するほどの事でも無い、とクリティックするのを避けているかのごとく。。。)
地理的には遠いイギリスにおいて、距離がある事で冷静に分析してもらえるのは、なかなかユニークな試みだと思います。彼が日本で私たちと会話してみた事によって、どのような論文を仕上げていくのか、こちらも非常に楽しみなところです。


ところで、この彼の名はマルコ・ボーアさんといいます。現在、水戸芸術館で開催中の展覧会「日常の喜び」に写真作家として出品中。展覧会はまだ未見ですが、いただいた新作の写真集を見てみると、彼の人柄がにじみ出ているような気がします。コンセプチュアルな作風ですが、あざとくなくドイツ人らしい落ち着いた視点。つくづく淡々とした日本の日常を観察するのが好きなのだなーと、思えてくる静かで内省的な作品です。