junkoの日記

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晴れた日に京浜工業地帯を漂う。

juwako2008-11-04

先日、ちょっと趣向の変わったクルーズに参加しました。アート・建築・都市計画・地域交流などの分野で活動するメンバーによって構成されたBOAT PEOPLE Association(BPA)というグループが企画した「YOKOHAMA Canal Cruise」というイベントです。BPAに所属している知人からお誘いがあり、クルーズの内容をチェックしたところ”何やら興味深気な企画だなー”とそそられ、参加と相成りました。
横浜から川崎の海岸沿いにある所謂京浜工業地帯の運河を、貸切ったクルーズ船で周遊するものだが、風光明媚な観光地とも違うこのエリアを周遊するのには、BPAなりの目的があります。普段見る事のできなかった都市景観を色んな人に体験してもらう事で、横浜の景観としての今後を考えるきっかけとなれば、というコンセプトらしい。本来は学術的なフィールドワークも兼ねてのこじんまりしたクルーズだったようです。しかし、運行には色々複雑な手続きが必要らしく、今回のクルーズで一旦終了するとの事。


今回私が参加したコースは旅行会社に主催してもらうかたちとなっており、ネット告知したためか一般客がかなり多いです。それも女性が半数。それもそのはず?ゲストとしてヒット本にもなりました「工場萌え」の著者の面々が、解説兼取材といったかたちで同乗していたのでした。
当日は良く晴れた午後、当初は少し風もありましたが段々と凪いできて、絶好のクルーズ日和。穏やかに澄んだ空気は撮影にもうってつけの日和となりましたが、カメラ抱えたお客さん満載の船が京浜工業地帯を進行していく光景というのも、なかなか不思議なシテュエーションだったかもしれません。


横浜港から出発、大黒ジャンクションからメイン・ストリートの京浜運河を川崎方面へ航行、大師運河から折り返しつつ横道の運河にも入ってみる、というコースです。左右ともに普段見る事のできない光景が広がり、皆さん撮影に大忙しの様子。デジカメでしょうから、フィルムと違って撮影枚数も気にせず勢いよく撮っています。こちらはアナログ的なフィルム撮影とヴィデオの2本立てです。知人から「この船の中でフイルム撮影しているのはアナタくらいでしょう。」と言われつつ。。
道中の詳しい様子は省きますが、工場やプラント、倉庫などが密集しているこの辺りで、やはり異彩を放つように目立つ存在は、このエリアに当初からあったであろう大きな企業の高炉やプラントでしょう。
これらは、「今」という時間帯から切り離されたように、周囲の光景とは独立し存在しているかのようです。年月を感じさせる錆や無骨なスタイルなどは、もちろん重厚感を感じさせます。しかしそれに加えて、取り囲むように縦横無尽に張り巡らされたパイプや配管などによって、独自に生きている何か大きく異様な生き物のように見えてくるところが、さらなる存在感を醸し出しているようです。
クルーズのハイライトとして、扇島のNKKを運河から出て東京湾側から眺める、というルートを設定。扇島という埋立地はほぼ全体がNKKのエリアなので、この島に入る事自体が関係者以外できないでしょう。
これまでは、たまに湾岸道路を通って羽田や成田へ行くリムジンバスに乗った時、この巨大なプラントをかすめながら、非日常的な光景を一瞬眺める程度でした。一般人である私達の圏外エリアといった場所ですね。
NKKに到着した頃がちょうど夕刻の時間帯、高炉に西日が当たり益々ドラマチックに見えてきます。なんだか遺跡を巡るツアーに近いものがありますね。

それにしても、今回のクルーズではこのような光景を見る事に感慨を覚えるような人々が集まっていた訳ですが、どうしてそのような感覚を持つ人が多くいるのか、というのも気になります。
こういった施設を作った側は、見られる事を想定して作っている訳ではないでしょう。かえって、機能性を逸脱するくらいの混沌さが感じられる建造物ほど、見ている側は感動している様子。やはり我々が把握しきれないくらいの機能性やそれらを維持していくために必要であろう人的・物的の膨大なエネルギーを、私達がこれらを見る事ではからずとも感じ取っ手しまい、圧倒されてしまうのでしょうか。
今回はクルーズという方法で、それらの施設を見て回りましたが、見慣れない光景の連続と共に水上に漂う浮遊感が、また非日常的な感覚でもありました。少し離れたところから流れ去ってしまう風景を眺める距離感も独特でしたし。
(注;NKKと記しましたが、現在は川崎製鉄と合併しJFEスチールという会社になっています。)