junkoの日記

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作品「Reflector」について。


現場に入り、一面360度が特異な光景である場合、そこを撮影するという目的を持っていると、まずは途方に暮れてしまうものです。
写真で撮影するという事は、フレームでその場の光景を切り取り、限定された空間しか提示できない訳ですから。
北京での取り壊し現場を廻っていた時、かなり大きな建物が壊されている一帯に出くわし、そのような心持ちを感じました。
その場にあった形(フォルム)が見渡す限りに崩れてしまっていると、そこをフレーミングしようとする意思は空転してしまい、しばらく漫然と見ている事しかできません。
そうする事でフレーミングするきっかけを、ぼんやりとそこから探し出そうとしていくのです。



その場の一部をただ撮影し切り取っただけでは、自分がこの光景に取り囲まれている状況を表す事はできないと思いました。
けれど制約がある中、どのような方法で撮影していくかが、各作家の展開次第。その時たまたま、私はヴィデオ撮影のために鏡を持っていました。鏡で周りの光景も写し込んだらどうなるか、その場に設置してみた訳です。
鏡を置いてみた瞬間、その場の雑然とした瓦礫の中に、また別な混沌とした空間が口を開けたのです。入れ子となって見える光景は、実際には有り得ない別次元の奥行きを生み出しました。
それは、錯綜した現場の雰囲気とも合致するようなイメージの出現で、カメラのフレーム越しから見た瞬間、高揚した気分となり撮影していったのです。


作品「Reflector」→ 全イメージ画像




例えば、イルゼ・ビング(1899〜1998、ドイツの写真家)の「puddle, paris」という写真。


水溜りに側にある建物が反映しています。雨上がりに晴れた時など、このような水溜りを覗き込むと、実際には有り得ない奥行きにビックリする瞬間があったりします。



ちなみに彼女のセルフ・ポートレイトもこれですから。







「Reflector」で試してみた効果は、現場で突如思いついた苦肉の策でしたが、二次元と三次元が錯綜する興味深い結果になりました。
そして、撮影された画像を印画紙へ定着させるという行為もまた、平面上に仮想空間を入れ込んでいくという作業のようだ、とあらためて考えてみたりするのでした。


追記;
現在この「Reflector」を見ながら思い返す事。。。
この撮影を最初に行った2010年10月、約1ヶ月間北京滞在して帰国。その後2010年の年末から2011年の初旬にかけて、このシリーズのプリント制作をしていました。
そうしているうちに遭遇したのが、1年前の3月11日に東日本大震災です。かの地で見ていた光景とは、較べものにならないような(というか較べるものではないかもしれない)の規模の崩壊的イメージの現実化。
震災直後から、テレビやパソコンからのそれら画像をただ見続け、やはり途方に暮れ唖然とする自分がいたのでした。