junkoの日記

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オルドス滞在記。その3




オルドスについて実際訪ねてみての印象は、”やはりここは中国であっても中国ではない”との感じがしました。内モンゴル自治区ではありますが、現在この地に住んでいる人達は、清代の時からここへ入植した漢族の人々のほうが多く、人口の80%以上を占めるようになっています。
しかし、もともとはモンゴルの風土文化が根付いている所。騎馬民族であり遊牧民でもあるモンゴル族の人々は、この地に大掛かりな文化的遺構を残していません。常に移動しながら活動していた彼らは、土地にどっしりと定着したような都は造らなかったようです。加えて気候が厳しいために、長期間の建設や保存が難しかったのかもしれません。残っているものは少なからずありますが、古くからのお寺や統治者の陵墓がポツポツと点在しているくらいです。中国国内の都のように、長期間にわたって大きく栄えた街は見当りません。 






前回訪れた鄭州は、歴史的な遺物が積み重なったような場所で、実際に旧市街の中に3,500年以上前の遺跡があったりしました。なので新区であっても、すぐ隣にある旧市街の賑わいや、周辺地域にも歴史的遺構があったりして、その地域のカルチャーに取り囲まれている気配がありました。
オルドスでは、内モンゴル独自の土地柄やカルチャーの違いが根底にあるせいか、土地に根ざした文化のあらわれ方の気配が薄いような印象を受けます。表層的には、現在の統治者がシンボル的にモンゴル様式を一部取り入れていますが。



オルドスの街の風情に奥行きが感じられないという感覚は、もともと歴史的な文物がほとんど残っていない土地柄ゆえか。そして、平原の中に突然造り出されたカンバシ新区のような新しい街にとっては、益々希薄な印象となるのは当然なのかもしれません。







街の外側は、このような平原や丘陵地帯が広がっている。





この街を例えて、「中国のドバイ」と言われたりします。砂漠の中に突然造られた都市ドバイと、状況が似通っているということで。(個人的には他の地名を出す例えは、イメージが強すぎて好きではないのですが。)私はドバイに行った事はないですが、街の規模や大きさは全然違うような気がします。
ここには、海外の企業やビジネスがまだ全然入ってきていません。先回に書いたように生まれていく街にしては、変貌していく活気のようなものがあまり感じられない不思議なエリアとなっています。街の広さに対して、居住者の数もまだまだ限られていますし。
造りかけのままで工事がストップしているビルが数多くあるので、奇妙な静けささえ漂っています。こちらの工法では建設中でも被いをしていないので、構造が剥き出し状態。その様子で放置されている構造物は、新築なのか廃墟なのか一見分からなく見えます。







決して大都市とは言えないほどのエリア(カンバシの中心部は半径10kmもない)は、観察し徘徊するにはちょうどよい広さ。そして、それほど大きくもないがゆえに、遠くから見ると平原の中にひょっこり現れた遺跡のように見えてきたりします。
周囲に広がる土地から孤絶したように生まれてきて、その輪郭をじわじわと静かに広げようとしている様相は、奇妙な生命体のようです。





こうして、この街の存在感とか陰影の薄さや不思議な空虚感は、かえってこの地の特徴となっているかのごとく思えてきます。
それは、もしかしたら遺構や伝えゆく文物が、あまり後世に残されなかった地であるがゆえ、そのような土壌であったがゆえなのではないだろうか、と考えてみたりするのです。









 *写真は記録として撮影したものです。 (C) Junko Takahashi 2012