junkoの日記

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鄭州滞在で思ったこと、2。


旧市街地東部に隣接するところ「鄭東地区」という新区があります。
ここの都市計画のために国際コンペを募り、新しい街のシンボル的なエリアを造り上げました。




鄭東新区の基本計画案は、コンペ1等になった黒川紀章氏が立案する事となりました。2007年黒川氏死去の後は、磯崎新氏が引き継いでいます。
現在、完成し機能しているのは、新都心地区の中心にある人口湖やコンベンションセンター、芸術センターなどと、それらを環状的に取り囲んで並んでいる高層住居・商業オフィスビル群。
加えて、これらの商業施設地域の隣、河を挟んだ住宅エリアもほぼ出来上がっている様子。”21世紀型の新しい住宅の実験、国際住宅博覧会とする計画”という。モデル地域らしく高級住宅街としての体裁を整え、その立地や施設価値の高さをアピールし”ハイクラスなライフスタイル”を謳っている。
第1期完成の2007年から入居開始。しかし実際の居住者はまだ多くないらしく、人の気配がほとんどありません。日が落ちてから行ってみると、窓の明かりが極端に少ないのは一目瞭然です。
人の気配があまり感じられないのは、この新区地域の特徴みたいなもので、旧市街の混沌とした雰囲気とは全く違う空間です。コンセプトが先にあって創られた区域ですから、人が馴染むまで時間がかかりそうです。





去年の森美術館での展覧会「メタボリズムの未来都市」がありましたが、その展示内でここのプランは「鄭州市鄭東新区如意型区域都市計画」として紹介されていました。
黒川氏は仏教思想に興味を持っていた建築家ですが、この地域に人為的な自然環境を作り出す事で、彼の提唱する「共生の思想」を実践しようと考えたようです。特徴的な環状的構造も”有機的で循環性の高い都市構造への提案”として実現されたとの事。
実際このあたりは、緑地帯や公園地域がかなり広く、造園デザインにも気を使っているのは判りました。(維持管理していく手間が結構大変そう。)休日にはそこを散策目当てで訪れる人々もチラホラ。




より大きな地図で 鄭州市 鄭東新区 を表示




上の写真はバスの路線図。地図の中央には大きな湖があり、周辺は整然とした区画が囲んでいる。ここが新区北側の副都心エリア。
しかしグーグル・マップにはまだ何も無い状態。新都心エリアは、バスなどで一通り回ってみました。けれど副都心側はどうなっているのだろう。
鄭州でこのバス地図を見つけた時、グーグル・マップに載っていなかったのは最近出来たばかりだから?と勝手に思ってしまいました。
なのでどんな場所なのか少々期待しながら行ってみましたが、実際のところは、、、ダンプとショベルカーばかりが動いている造成地、まだ具体的なものは無いようです。



やはり現実は、まだまだ予想計画に追いついていないみたいです。計画では、面積約150平方キロ、将来人口150万人規模。しかし、これはあくまでも当初の予想計画です。
居住区の人気(ひとけ)の無さや、商業地区も休日さえ目立った人の多さで賑わっている様子はありません。素人目にも、今のところ数万程度の人々が出入りするくらいかと思われます。



私は都市計画や建築の専門家ではありませんので、この現実については、まずビジョアル的に奇異な印象を持ってしまいました。
新しく造られ、労力や財政的に相当なエネルギーの流れがあるにも係わらず、何かが進行中の熱気のようなものがあまり感じられません。かえって郊外の高層マンションを乱立していた現場のほうが、そのような熱気を感じられた気がします。
計画の思惑として、ここに自然の動植物や人が集う場所 = ”都市の中の祝祭空間”を造り上げようとしているらしい。けれど、人々が集い生活する場にしては、整然とし過ぎて素っ気無い空間となってしまっている印象を受けました。居住地区はセキュリティの厳しいゲートシティですから、人を拒絶しているような様相でもあり、たまに活気が感じられるのは、コンベンション・センターでイベントがあった時くらいでしょうか。
工事中なのに人の気配があまり無い現場では、建物の構造がまだむき出しの状態ゆえ、新築なのに廃墟のような趣に見えてきたりします。整然とした場で動くものといえば、緑地帯への自動散水機のみだったりする場面によく出くわしました。
まるで、宮崎駿氏の作品「天空の城ラピュタ」のような、ロボットだけが永遠にその場を動き回りながら守っているような異空間へ入り込んだ気分になりました。



新区の特徴である環状的に並んでいるビル群、その中心に聳え立つ高層ホテル、周辺に造られた欧風邸宅を模した少々無国籍な住宅地域など、外観は計画通り未来都市の様相です。それゆえ、実際にそこに入り込んで見てみると、具体的なディテールから現場の現実が垣間見えてきます。



この地区の計画プランを考え出したのは黒川氏ですが、最初の事業計画を考え出し、プランを国際コンペで立ち上げたり、実際の施工をしているのは、ここ鄭州を管理している人々です。しかし、この冷めたような空気感は、すでにここの人々の関心が遠のいているのかしら、という気配を感じてしまいます。
埃舞う光景の中に霞む巨大な建築物を眺めていると、果たしてここは完成するのか、もしかして永遠に未完のまま、造り続けていく事が目的の街なのだろうかと思えてきます。